Interview

成地 健太郎氏

医化学創薬株式会社

博士の強みを活かして新たな価値を創造する。

医化学創薬株式会社
取締役 事業推進部部長 兼 主席研究員

成地 健太郎氏

未開拓の分野で経験や知識を活かせるのがやりがい

——貴社の事業内容についてお聞かせください。
成地:当社は、糖鎖合成をもとにした創薬、糖鎖の受託解析、糖鎖に関わる試薬販売の三つの事業を行なっています。「糖鎖研究の発展に寄与し、創薬を通して人類、社会の健康に貢献する」という理念のもと、創薬事業においては、糖タンパク質の抗原を糖ペプチドとしてデザインして抗体を取得し、治療薬として世に出すことが大きな目的です。受託・試薬事業では、製薬会社や大学の研究室などからのオーダーに応じて、より高いレベルのサービスや商品の提供を目指しています。

——どのような業務を担当されているのですか?
成地:私は事業推進部長であり取締役でもあるので、顧客の要望に対する試験提案から受注までの橋渡しをする役割や、学会での展示・営業活動、それに加えて、実際に現場で手を動かして合成・解析も行うという、役員としての側面と従業員としての側面を兼務している状況です。

——ご自身の業務のどこに魅力を感じていますか?
成地:現在、遺伝子については研究が進み、あまり専門性のない人でも合成することができます。一方糖鎖は、いまだに自在に合成できる手段がなく、糖の化学合成に精通していないと難しい分野です。そういった環境で、自分の経験や知識を活かして、目的の糖鎖分子をいかに合成・解析するかという部分に面白みを感じています。

——経歴を簡単にご紹介ください。
成地:私は大学・大学院と、糖鎖の化学合成の研究を行ってきました。その後、複雑な糖鎖構造を酵素と化学の組み合わせで合成するというテーマで学位を取得し、ポスドクになってからは北海道大学での糖鎖合成プロジェクトに参加していました。その頃から共同研究者として当社とは繋がりがあり、設立2年目に声をかけていただいて、入社しました。

企業では、全方位のコミュニケーション能力が必要とされる

——博士課程を経て就職されていますが、お仕事のなかで博士ならではの強みを感じることはありますか?
成地:論文の作成経験を通して研究の成果をまとめて対外的に説明できる訓練を受けてきているので、技術営業で取引先にわかりやすく説明しようとするときなどに、その経験が活きていると感じます。また、学会や展示会に参加している海外の人たちは、名刺に学位があるのとないのとでは接し方が違ってきます。やはり学位があった方が積極的にお話を聞いていただけますね。
——就職してみて、アカデミアとの違いを一番感じたのはどんなところでしたか?
成地:アカデミアでは、比較的個人プレーが多いと思うんです。研究室の教授や先輩と縦の関係性があるくらいで、基本的には自分ひとりでコツコツと研究をこなす。一方企業では、チームでコミュニケーションを取りながらプロジェクトを進めます。いかに周りと協力したりうまく巻き込んだりしながら進められるか。縦関係だけでなく、全方位のコミュニケーション能力が必要になると思います。

——個人プレーで得られる成果とチームプレーでの成果に違いはあるのでしょうか?
成地:自分のアイデアが実際に起用される割合は減るかもしれませんが、結果的にアウトプットの時間が早まり回転率が上がるので、結果として、自分だけではできなかったであろう業務まで経験できます。そういった意味で、企業での勤務経験はその後のキャリアパスにおいても有利に働くのではないでしょうか。

——企業で働くことの魅力はどんなことだと思いますか?
成地:実は、入社時には2〜3年ここで働いたら製薬会社に転職するつもりでした。ですが当社で責任ある立場を任され、自分のやりたいことを実現しやすくなったこともあり、今の自分がいます。取引先ともウィンウィンの関係性を築きながら会社を成長させていくと同時に、自分が満足できる環境で働けるということはとても幸せだと思います。

——この先の展望や目標を教えてください。
成地:私は役員という立場もありますので、まずは上場を目指して経営を軌道に乗せ、成長させていくこと。現在開発中の創薬のシーズをなるべく早く世に出して、さらにさまざまな成果を発信できるようにしていきたいと思っています。

やりたいことを見極め博士の強みを活かせるキャリアを築いてほしい

——キャリア構築に悩んでいる博士課程の学生やポスドクの皆さんにアドバイスをお願いします。
成地:博士課程の在学中、できるだけ早い段階で、研究の内容や論文の本数など、自分を客観的に評価してみてほしいですね。やりたいことと現状がマッチしているかをなるべく早く見極めることで、キャリアパスが描きやすくなると思います。

——博士課程への進学を考えている学部生・修士生に向けても、ひとことお願いします。
成地:先ほども言いましたが、海外の研究者と話したり、対外交渉をしたりする際には、学位の取得は絶対に必要です。ですから、グローバルに活躍したいのであれば、博士課程への進学は必須だと思います。また、当社のようなベンチャー企業だけでなく、大企業でも学位取得者でないと基礎研究に関わるのは難しいことは知っておいてほしいと思います。学部卒や修士卒の場合、品質管理や製造部門に配属されることが多くなりますから、自分でなにかを創造したいと考えるのであれば、博士課程をベースにするべきだと思いますね。

——ありがとうございました!