Interview

佐々木忠将 氏

エディットフォース株式会社

明確な目標と社会に貢献できる実感が
モチベーションに繋がる。

エディットフォース株式会社
研究開発部 創薬グループ主任 博士(生体情報)

佐々木 忠将 氏

原体験と興味の対象が時を経て巡り合った

——貴社の事業内容についてお聞かせください。
佐々木:当社は九州大学発のバイオベンチャーで、独自開発のゲノム編集技術をもとにして、メディカル、アグリ、ケミカルといった各産業への展開を行なっています。当社のゲノム編集は、PPR(Pentatricopeptide repeat)技術を用いており、この技術を利用することで、DNAを対象としたゲノム編集だけでなく、RNAレベルでの編集も可能となります。この技術は、作物の品種改良の迅速化や、動物実験の効率化など、広範囲に応用することができます。

——そのなかで、佐々木さんはどのような業務に取り組んでいるのですか?
佐々木:大きく分けてDNAレベルとRNAレベルのふたつに分かれる研究のうち、RNAレベルにおけるスプライシング*1を制御するツール開発を行っています。PPR技術を用いて、RNA上のどこの塩基にどのようにPPRタンパク質を作用させれば効率的にスプライシングを制御することができるのか、といった内容ですね。

——なぜその業務を選んだのですか?
佐々木:私は大学時代に、ある社会福祉法人でアルバイトをしていました。そこでは、先天的な病気や事故で、体を思うように動かせない人たちの就労や社会復帰をお手伝いする活動を行なっていました。私の専門分野は植物でしたので、分野違いではあるものの、研究者の端くれとして、先天性の病気の原因を調べてみたところ、ひとつの塩基が変容を起こす「スプライシング異常」が原因となっている病気が多かったんです。その後、葉緑体の遺伝子発現の解析から植物の形質転換、バイオマス関係と、ずっと植物の研究に関わっていたのですが、心のどこかで、学生の頃に出会ったあの人たちに対して、自分がなにもできなかったことを悔しく思い続けていたんですね。だから、当社のPPR技術を知った時に、この技術を使ってスプライシングを制御できれば、重大な疾患を抱えている人たちの何パーセントかでも救えるのではないか、と感じたんです。入社が決まったときには、即決でこの業務を志望しました。

——ご自身の原体験と興味対象が時を経て巡り合ったということですね。
佐々木:そうですね。あの体験がなければ、この会社に勤めたとしても別の研究をしていたかもしれません。長年基礎研究に携わってきて、もっと応用を目指せることをやりたいと感じていたタイミングで当社の人材募集を知ったのも、巡り合わせといえるかもしれませんね。

——エディットフォース社の人材募集に応募されたときには、積極的に転職活動をされていたのですか?
佐々木:退職が決まっていたわけではないのですが、前職では任期も不確実な部分がありましたし、環境を変えたいという思いもあり、常にアンテナは張っていました。やはり、いつまでに転職しなければいけないと決まってから探し始めると、自分のやりたい仕事に巡り会える可能性は低くなってしまうと思うんです。ですから、普段から転職ポータルサイトなどで継続的に情報収集していましたね。

ゴールを明確に語れることは企業の大きな魅力

——入社してみて、どんなことを感じましたか?
佐々木:開発スピードの速さですね。四半期ごとにゴールがあって、すべての計画はそこに向かって策定される。アカデミアでもゴール設定は行われますが、期日を迎えて計画が達成されていなくても、もっと掘り下げてみよう、と追究することが多いですよね。一方企業では、成果が出なければ一旦ペンディングして、別の方向へ舵を切ることが多いです。その違いはかなり感じます。

——長年アカデミアで基礎研究をされていたところから、企業のスピード感に順応するのは大変ではなかったですか?
佐々木:そこは上司を見習って、という感じですね。創業者でCSO*2の中村も元々はアカデミアの出身ですが、企業活動するうえでは、結果が出なければすぐに諦めるし、お金を節約して自分の手を動かすよりも効率的と判断すれば、外注することを厭いません。そういうところを見て学んでいます。

——入社してよかったと思われることはありますか?
佐々木:アカデミアで基礎研究をしていると、助成金や補助金を獲得するために、かなり遠い先の応用を見据えたアピールをする必要があります。一方企業では、応用先がはっきり見えているので、胸を張って自分の研究をアピールできます。もちろん基礎研究は大切ですが、ことゴールを語るときにギャップが少ないのは、自分にとっては大きな魅力です。

アンテナを張り興味を広げて自分の武器を磨く

——今後の目標はどんなことでしょう?
佐々木:まずはPPR技術を用いたスプライシング制御を目指す。さらに、それを使って実用的に薬がつくれるという臨床研究のデータを得ることが具体的な目標です。そして、成果を積み上げて、会社自体を大きく発展させ、知名度を上げていければと考えています。また、PPR技術にこだわらずに、自分の力で別の事業の柱を建てられたら、面白いと思いますね。目の前の仕事に集中しながらも、常に広い視野を持って、アンテナを張っていたいと思います。

——キャリア構築に悩んでいる博士課程の学生やポスドクの皆さんにアドバイスをお願いします。
佐々木:なるべく視野を広く持って欲しいですね。自分の好きな研究に没頭してしまう気持ちもよくわかりますが、周囲を見渡して、他の人の研究も含めた知識を、浅くてもいいので持っておいた方がいいと思います。キャリアを考えるときに、自分はこれしか興味がないので、とこだわるよりも、幅広い興味があって、そこから自分にできることを選択するほうがより可能性が広がると思うんです。それからコミュニケーションも大切です。今の時代、ひとりで完結できる研究はほとんどありません。基礎は自分でやるけれど、解析は他の誰かに頼むとか、共同で研究するといったことが一般的なスタイルになっています。ですから、さまざまな人とコミュニケーションをとれるようにしておかないと、おそらくアカデミアでも産業界でも、思うようなキャリアを構築するのは難しいのではないでしょうか。

——博士進学を考えている学部生、修士生にもひとことお願いします。
佐々木:生涯賃金を考えても、少なくとも修士課程までは進んでおいた方が良いと思います。私は数年間大学教員を経験していますが、就職を前提にした学部生には、どうしてもごく初歩的なことしか教えられません。修士課程なら最低1年半はみっちり研究できますから、自分の分野に関する深い知識と研究を進める思考能力が身につくはずです。それが、就職後の武器になりますからね。博士課程への進学は、職種にもよりますが、例えば当社でも、プロジェクトを進める時には博士号を持つ人材が中心になりがちです。自律的な仕事をしたい人は、博士進学をしておいたほうがいいと思いますね。

——ありがとうございました!


*1 スプライシング:ある直鎖状ポリマーから一部分を取り除き、残りの部分を結合すること
*2 CSO:Chief Scientific Officer